ポータブル電源基礎知識
ポータブル電源電源とは、一般的には大容量でAC電源出力ができるものを指す場合が多いです。 モバイルバッテリーとの違いは下記の表にまとめてみました。
ポータブル電源とモバイルバッテリーの比較
そもそもポータブル電源とモバイルバッテリーの違いは「AC100V交流電源出力」ができるかできないか、が大きなポイントです。また、手のひらサイズのものをモバイルバッテリー、それよりも大きく大容量なものをポータブル電源と呼ぶ場合もあります。
それ以上大きな容量で、持ち運びができない電源は単に「大容量蓄電池」と呼ばれます。
項目 | ポータブル電源 | モバイルバッテリー |
---|---|---|
容量 | 100Wh~5000Whの大容量 | 100Wh以下 |
出力ポート | AC電源・USB・DC・シガーソケット | USBのみが多い |
入力ポート | AC電源・ソーラーパネル・シガーソケット・USB | AC電源・USB |
定格出力 | 3000W大出力可能な製品も | 100W以下 |
最近の大きな特徴として「ソーラーパネルからの充電」ができるポータブル電源が主流となっています。
電池の種類について
リチウムイオンの電池の種類は非常に多いのですが、ポータブル電源には現在大きく二種類のリチウムイオン電池が使用されています。
- コバルト系・三元系(NCM)のリチウムイオン電池
- リン酸鉄リチウムイオン電池(LiFeP04)
特徴としては、下記の表になります。
項目 | 三元系リチウムイオン | リン酸鉄リチウムイオン |
---|---|---|
安全性 | ◯高い | ◎非常に高い |
サイクル寿命 | 500回 | 2000回以上 |
電圧 | 3.6~3.7V | 3.2V |
エネルギー密度 | ◎高い | ◯低い |
現在のポータブル電源では安全性の高いリン酸鉄リチウムリチウムイオンの製品も多くなっています。
バッテリー容量について
ポータブル電源のカタログや商品ページを見ると、容量は「Wh」(ワットアワー)と「mAh」(ミリアンペアアワー)で表記されています。
h(アワー)について
基本的には、「h」アワー=1時間と考えます。
1000Whは、「1000Wの機器を1時間使える」「500Wの機器を2時間使える」となります。
W(ワット)について
「W」(ワット)は消費電力を表す単位です。
「A」(アンペア)x「V」(ボルト)=「W」(ワット)
電流 x 電圧で消費電力となります。
A(アンペア)とV(ボルト)について
「A」アンペア(電流)は、電気の流れる量ですが、ポータブル電源では電池の容量を表します。
「V」ボルト(電圧)は、電気を押し出すパワーを表します。前述の電池の種類によってセルあたりの電圧は3.2ボルトだったり、3.6Vだったりします。
また、「m」(ミリ)の単位は、1000mAh=1Ahとなります。20000mAhなら20Ahとなります。
mAhをWhに変換してみる
例えば200,000mAh表記の三元系リチウムイオンポータブル電源をWh単位に変換する場合、まずAh単位に合わせます。
200,000÷1000=200Ah
次に三元系リチウムイオンは、3.6Vとすると
200Ah×3.6V=720Wh
となります。WhをmAhにする場合は、720Wh÷3.6V=200Ah=200,000mAhとなります。
スマートフォンへの充電を計算してみる(机上参考値)
スマートフォンへの充電での注意点は「USB出力ポート」での充電からの充電という点です。
3000mAhのバッテリー容量を持つスマートフォンの場合出考えてみますと、USB2.0の場合500mAhの出力となるため、3000÷500=6時間計算上はかかります。
USB3.0の場合は、0.9A出力のため、3000÷900=約3.3時間で充電できる計算です。(※スマートフォンの定格入力による)
では720Whのポータブル電源では、3000mAhのスマートフォンは「何回充電できる」でしょうか。
ココでの注意点は、WhをmAhに変換する際、「USBの定格電圧 5.0V」で計算する必要があることです。
720Wh÷5V=144Ah=144000mAh
144000÷3000=48回
となります。ただ、実際はまったく空の状態から充電することもないですし、ポータブル電源内で3.6V→5Vの変換が行われているため、ポータブル電源の容量100%は使用できない計算になるため、あくまで参考値となります。
容量表記の注意
仮に、容量 20,000mAhのモバイルバッテリーがあったとして、この容量はおそらく3.6Vセルの合計容量の可能性が高いです。 これをUSB出力するためには、5Vへ変換する必要があるため、3.6÷5×20000=14400mAhが5V出力時の容量となります。
出力ポートの種類
ポータブル電源はモバイルバッテリーにくらべて多くの出力ポートを実装しています。
代表的な出力ポート
- 100V AC出力ポート 1口~6口
- USB-A2.0 ポート
- USB-A3.0 ポート
- USB-A QC(クイックチャージ)対応 ポート
- USB Type-C ポート
- USB Type-C PD(パワーデリバリー)対応 ポート
- シガーソケット
- DC(直流)ポート
- Qi対応
AC出力ポートのチェックポイント
AC電源出力ポートはポータブル電源の最大の特徴ですので、下記のチェックポイントを抑えておきましょう。
- 3層コンセント(アース端子付き)を挿せるタイプのコンセントかどうか
- ACコンセントの数
- コンセント1つあたりの出力ワット数(定格出力)
- 正弦波か疑正弦波か。コンセントと同じ正弦波のほうが機器トラブルは少ない。
- 出力周波数(50hz/60Hz)切替可能かどうか。
- 出力電圧(100V/110V)
純正弦波、矩形波
ポータブル電源やUPSの交流出力には純正弦波と矩形波、または疑似正弦波(修正正弦波)があります。
接続する家電背品や機器によっては、純正弦波ではないと正しく動かないものもありますので、極力純正弦波のポータブル電源を選ぶと良いでしょう。
東日本は50Hz、西日本は60Hz
商用電源は、地域によって50Hz(東日本)と60Hz(西日本)に分かれています。ポータブル電源では、AC出力のヘルツ数を50Hzと60Hzで切り替え機能がついている製品、ヘルツが固定の製品がありますので注意が必要です。
ただ、ほとんどの家庭製品やACアダプターを使うデバイスは50Hz/60Hzを自動的に判断するインバーターが内蔵されている可能性が高いため、殆どの場合だ問題なく使用できると思います。
USB-A 2.0 ポート
5V 0.5A 最大2.5W の電流を供給できる規格。最近のポータブル電源ではUSB3.0が主流のため採用されなくなってきています。
USB-A 3.0 ポート
端子が青く塗り分けされたUSBポートで、5V0.9A最大4.5Wの電流を供給できる規格(USB規格)です。現在のポータブル電源のUSB端子はこちらが主流となっています。
USB-A QC(クイックチャージ)対応 ポート
従来のUSB規格とは別に、スマートフォンやモバイルデバイスに電源を供給できるように拡張された規格です。
- QC1.0 5V 2A 最大出力10W
- QC2.0 5V-3A、9V2A、12V1.67A で最大出力18W
- QC3.0 3.6V~20Vまで200mV刻みで可変。供給電流は2.6A、4.6A。最大出力18W
USB Type-C PD(パワーデリバリー)対応 ポート
通常のUSB Type-Cは、5V3Aまで電源供給可能です。USB PD(パワーデリバリー)規格だと最大100W(PD3.0)の電源供給可能となります。 また、一部のポータブル電源では「入力ポート」としても使用可能です。
最近のアップルのノートパソコンもUSB Type-C対応となっていますので、今後はこのUSB Type-C PDポートが主流となっていくと思われます。
ポータブル電源を選ぶ際には、USB Type-CのPD対応のものを選ぶと良いでしょう。
シガーソケット
多くのポータブル電源には、「シガーソケット」対応の出力ポートを持っています。車載用のデバイス(掃除機、ポット、ミニ冷蔵庫、扇風機など)をそのまま使用することができます。一般的に12V10Aであることが多いです。
DC(直流)ポート
12Vの直流の出力できるポートで、DC5521という規格のものが多いです。
Qi(チィ)出力 無接点充電
Qi対応のスマートフォンであれば、置くだけで充電可能です。
EV出力
入力ポートの種類
ポータブル電源はモバイルバッテリーに比べて入力ポートも多彩で、使用環境にあわせて入力方法も検討する必要があります。 代表的な入力ポートは下記のとおりです。
- AC100Vからの充電(アダプタタイプ、電源内蔵タイプ)
- ソーラーパネルからの充電(DC5221ジャック、MC4コネクター)
- USB Type-C PD(パワーデリバリー)入力
- シガーソケット充電(DC7909)
- EVステーションからの充電
入力ポートのチェックポイント
AC100V入力と、USB Type-C PD入力またはソーラーパネル入力を両方同時に使う複合入力充電(デュアル充電)対応製品なら、充電時間を大幅短縮できます。
AC100V入力
ほとんどの場合、専用のAC充電アダプタが付属し、AC(交流)をDC(直流)に変化して充電を行います。 据え置きでの使用を予定している場合は良いですが、持ち運ぶことを想定している場合は、充電器も入るバッグ付きなどを選択すると良いでしょう。
まれに、本体に充電器を内蔵して、AC100Vコンセントから直接入力するタイプもあります。
ソーラーパネル充電
多くの大容量ポータブル電源はソーラーパネルからの充電も可能です。ソーラーパネルがあれば、長期間の停電や海や山など電源がない場所で充電が可能 となります。またベランダなどに設置して日常的に使用する電気をソーラーから提供されることで長期的には電気代の削減につながるような使い方もできます。
ポータブル電源の容量にあわせて、最適なソーラーパネルを選定すると良いでしょう。一般的には100W出力のソーラーパネルが主流で、100Wのソーラーパネルを2セット、3セットと組み合わせることで入力のワット数を調整します。
1000Wのポータブル電源へソーラーパネルで充電する場合、
- 100W発電のソーラーパネルなら10時間以上
- 合計200W発電のソーラーパネルなら5時間~6時間
- 合計400W発電のソーラーパネルなら2.5時間~3時間
ただし、ソーラーパネルは天気や太陽光の入射角が時間とともに変わるため、だいた70%~80%くらいの発電量で計算すると良いと思います。
USB Type-C PD充電
USB Type-CのPD対応のポートがあれば、AC充電アダプタが紛失した場合や故障した場合でも充電できるとイザというときに役立ちます。 ソーラーパネルがUSB Type-C出力対応なら、ACとPDでデュアル充電ができる機種もあります。直流の入出力なので、変換ロスが少なく効率よく電気を充放電できます。
シガーソケット充電(DC7909)
車のシガーソケットから充電できれば、車で移動中にポータブル電源へ充電できます。キャンプの帰りなどで使用した分を移動時間に充電すれば次回使用するときに充電不足にならずにすみます。
EVステーションからの充電
まだごく一部のポータブル電源ですが、EVステーション(電気自動車の充電スタンド)から充電できる機器もでてきています。AC充電に比べ圧倒的な充電速度で充電可能です。
PSEマークについて
電気用品安全法のマークで、一定の基準を満たし安全な製品に付与されるマークです。 モバイルバッテリーは販売にあたっては必須のマークですが、ポータブル電源は本体は交流出力のため必要ありません。ただし、ACDCアダプター充電器にはひし形のPSEが必要です。
- ひし形:国が定めた機関で検査を行い、厳しい検査項目をクリアする必要がある
- まる形:自主検査または第三者検査機関で検査して申請する必要がある
パススルー充電とUPS機能の違い
ポータブル電源には、「本体を充電しながらデバイスへ出力」できる機能を持ったものもあります。大きく分けると、パススルー方式とUPS方式に区別できます。
パススルー方式
パススルー方式は、充電しながら放電を行う方式です。パススルー充電に対応していないポータブル電源の場合、充電をしていると放電(接続デバイスの充電)ができません。パススルー充電に対応しているポータブル電源であれば、例えばソーラーパネルでポータブル電源本体へ充電を行いながら、USB接続したスマートフォンへ充電する、といった使い方できます。
ただし使用の際には下記の点を留意しましょう。
- ポータブル電源本体へ充電しながらデバイスへ電源供給できる。
- デバイスの充電時間が長くなる場合がある
- ポータブル電源本体の負荷がかかり温度上昇する場合がある(ファンが回りっぱなしになる)
- 充放電を短いサイクルで行うため電池寿命が短くなる可能性がある
UPS機能付きポータブル電源
UPSとはUninterruptible Power Supply:無停電電源装置の略語で、停電した際にサーバーやデスクトップパソコン、レジスター、自動ドア、防犯カメラなど停電中も一時的に電力が必要な機器に接続するための非常用バッテリーです。
ポータブル電源も非常用電源として利用できるので、UPSとしても使えるのではないか、と考えますが基本的には本格的なUPSとしての機能が無いものが多く、パススルー方式で接続しておけば停電時に一時的に電源共有できますが、「長期運用」を考えるとデメリットもあります。
UPSには下記の3つ方式があります。
常時商用電源給電方式
通常時はACコンセントからの電力をそのままパソコンやレジスターなどに供給し、ACコンセントからの電源供給が絶たれた場合に、バッテリーからインバーターで直流を交流に変換してAC出力されます。瞬断が発生します。シンプルな構造のため、小さく安く作ることができます。
ラインインタラクティブ方式
通常時はACコンセントからの力をトランスを経由してデバイスに供給します。停電時や一定以上の電圧変動を検知するとバッテリー給電に切り替えます。常時商用電源給電方式同様にシンプルで低コストですが、電圧調整機能があり切り替えも 常時商用電源給電方式 より早い製品が多いです。
常時インバータ給電方式
常時商用電源供給方式とは逆に、常にインバーターを経由して、バッテリーに充電を行いながら、安定した出力をデバイスに供給するUPSの方式です。常に調整された電力を供給でき、停電時の切り替えも瞬断なく行えるため、医療器具や高精度の機器への電力供給に向いています。価格が非常に高いという特徴があります。
UPS給電方式比較表
項目 | 常時商用電源 | ラインインタラクティブ | 常時インバーター |
---|---|---|---|
瞬断 | あり | あり | なし |
電圧 | 不安定 | 比較的安定 | 安定 |
価格 | 安価 | 安価 | 高価 |
出力 | 切り替え後は矩形波が多い | 正弦波 | 正弦波 |
主なデバイス | PC/周辺機器 | サーバー/周辺機器 | サーバー/医療機器 |
サーバーやクライアントPCとの連動ソフト
UPS製品とポータブル電源の大きな違いに、「管理ソフト」の有無があります。通常UPS製品にはサーバーやパソコンと連携する管理ソフトが付属し(有料/無料がある)、停電が発生しバッテリー給電に切り替わると、サーバーやパソコンにシャットダウン信号を出して自動的にシャットダウンされる管理ソフトでコントロールします。
UPS製品の多くはまだ「鉛蓄電池」を使用しているため、停電時に長時間サーバーやパソコンを運用できないためです。
大容量ポータブル電源の場合、シャットダウン信号を出すような製品はほとんどありませんが、UPSに比べて運用できる時間が長いため、数時間程度の停電の間はシャットダウンせずに運用することが可能です。
wi-fiやBluetooth機能搭載。スマートフォン連携機能
大容量ポータブル電源には、スマートフォン連携できる機能がついているものもがあります。バッテリーの状態管理が必要なシーンでは、手元で状態を確認できたり、複数設置の場合はいちいちポータブル電源の場所まで行かなくても全体の運用状態が確認できたりします。